『夏の名残りの薔薇』

夏の名残りの薔薇

夏の名残りの薔薇

本格ミステリーマスターズの1冊なのですが、私の力量ではミステリーだとは、なんとなく感じられなかったような。それでも、かなり好みの作品です。
山の中のホテルで3人の老姉妹によって選ばれた客人が、姉妹の遊びのような、嘘とも真実とも区別できないような作り話を聞かされながら過ごすストーリー。章ごとに語り手が変わり、そのストーリーも少しずつ変わっていく。(前の章で死んだ人が次の章では生きていることが多い)その章ごとのズレや、老姉妹の作り話に惑わされ不思議な感覚になります。
語り手たちの一人称が皆「私」なので、話が少し進まないと、誰がこの章の主人公なのか分からない。でも、そのおかげで一番最初の「主題」のところの「私」が誰なのか、いろいろ想像できるのが素敵な演出だな〜と思いました。読んでいる途中は、少し引用されすぎて邪魔かなと思った『去年マリエンバートへ』も、最後まで読むと必要だったかもと思えてきたり。
最初の方で時光が言っている「ホテルは舞台に似ている」という台詞も印象深い。私の中では「恩田陸の小説は舞台に似ている」に言い換えられるかも。恩田陸のこういう雰囲気の本(『麦の海に沈む果実』『木曜組曲』『蛇行する川のほとり』とか)だと、作品自体が舞台で、登場人物がそれぞれ役者になって、自分の役割を演じているような、時々打ち合わせにない出来事が起こってオロオロする役者がいたりするドラマ、劇、映画を見ている気がしてきます。